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祝!ソフトウエアジャパンアワード受賞 「OSSで社会貢献したい」Vuls開発者 神戸さんインタビュー

2020年6月3日、一般社団法人情報処理学会のオンライン定時総会で2019年度ソフトウエアジャパンアワード表彰報告が行われました。

このアワードは、日本が世界に誇るソフトウエアエンジニアに贈られる賞で、2019年度はオープンソースの脆弱性スキャナ―「Vuls」の功績を認められ、当社の神戸康多さんが受賞しました。
※Vulsの詳細はこちらから。

そこで今回は、神戸さんにこれまでの道のりや想いなどをお聞きしました。Vuls誕生の裏側には、先進的な試みをする先輩から受けた刺激や、修行僧との思いがけない出会いなど、多くのドラマがありました。

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神戸康多(かんべ こうた) 
フューチャー株式会社 サイバーセキュリティイノベーショングループ シニアアーキテクト。
2004年立命館大学大学院理工学研究科情報システム学専攻修士課程修了、フューチャー入社。
趣味は、オフロードバイク、家族と行く山登り、サウナ。特に、Vuls開発中にハマったサウナは、気持ちがリセットされるところが好き。サウナでひらめいた設計、実装方法もある。1万人以上が集うIT系技術情報収集Slack「モヒカンSlack」酋長。

賞状と神戸さん

嬉しさのあまり、賞状の額縁は自腹で購入したとか。

◆Vulsはユーザーと共に進化してきた

― ソフトウエアジャパンアワード受賞、おめでとうございます!過去の受賞者をHPで拝見しましたが、そうそうたる顔ぶれですね。

本当に名誉なことだと思っています。Ruby開発者のまつもと氏「ニコニコ動画」の戀塚氏も過去の受賞者ですし、2014年度に受賞した登氏はコロナ禍でテレワーク需要が高まっていた今年4月に「シン・テレワークシステム」をわずか2週間で開発したことで話題になりました。

有名なソフトウエアやサービスの開発者だらけで全員紹介していたらきりがないほどの顔ぶれです。そこに混ぜてもらって光栄です。

― 受賞に対し、神戸さんの周りの方々の反応はどんなものでしたか? 

社内外から多くのお祝いの言葉をいただき、Facebookの「いいね」数も自己記録を大幅に更新しました。実家の両親と、それ以上に93歳の祖母が非常に喜んでくれたことも嬉しかったです。

神戸さんFB

2016年4月の公開以来、継続的に機能拡張やメンテナンスに取り組んできてよかったです。ここまでモチベーションを維持し続けられたのはOSS※だったからこそだと感じています。

※OSS:Open Source Software。ソースコードが公開されていて、誰でも自由に使用、修正、再配布等が可能なソフトウエア。

― OSSではなく、初めから会社のサービスとして開発していたら、違う展開だったでしょうか?

全然違っていたと思います。OSSとして公開したことで、様々な環境やアーキテクチャで開発するユーザーが実際に使ってテスト、改善をしてくれます。現在約400件のイシュー(課題、バグ)が登録され350件以上がクローズされていますし、プルリクエスト(改善プログラム)は600件ほどクローズしています。4年間でこんなにも多くの機能改善・追加がなされました。社内だけに閉じた環境に比べると圧倒的なスピードで進化を遂げることができています。

OSSに関わるエンジニアは技術に長けた人が多いのですが、全く異なる現場で、異なる経験を積んできたその人達が、金銭的な見返りなしで、自分の時間を割いて、プルリクエストを送ってくれるのです。僕の技術・知識・経験の延長線上にない解決方法で、性能が飛躍的に向上したこともあります。今まで関わった人達に本当に感謝しています。

◆圧倒的な差を感じた先輩との出会い「僕もいつか外で勝負したい」

― 学生時代からITを勉強し、フューチャーでインターンを経験したそうですね。

情報システム学を専攻し、コンピュータやネットワークについて勉強しました。IT業界の、いわゆる3~4次請けの企業でプログラミングのアルバイトもしていました。

修士課程在籍中には、大手家電メーカーでインターンを経験しました。しかし、堅苦しい雰囲気が自分には合わないと感じたので、2社目は全く社風の違う会社でインターンをしようと考えました。インターン募集サイトで時給の高い順にソートして、1位に表示された会社がフューチャーでした。

― 以前からフューチャーのことはご存じでしたか?

いいえ、その時初めて知りました。ベンチャー企業でのアルバイトの経験から、自分で直接お客さんに仕様を聞いて作りたい、自社で受注して最後まで作る会社がいい、と考えていて、フューチャーではそれができそうだと感じました。そして時給が高かったこと、渋谷で働けることが決め手となって、応募しました(笑)

渋谷オフィス1_v2

当時の渋谷オフィス(2000年~2007年)のエントランス。

インターンの受け入れを担当してくれた若手社員がとにかくすごい人で、圧倒的な技術力の差を痛感し、成長できそうな会社だという印象を受けました。柔軟で面白い人がたくさんいること、最先端の技術を積極的に取り入れる会社であること、自由なカルチャーなどにも惹かれましたね。毎日スーツを着る必要がないというのもいいな、と(笑) (※フューチャーはビジネスカジュアル)

就職活動の時期になり、フューチャーから内定をもらえたので、そのまま入社することにしました。

― 即決(笑) フューチャーに入社してからのことを教えてください。

新人研修を終えて初めて配属されたプロジェクトで1年ほど、文字通り寝る間を惜しんで働きました。ですが、力を注いできたシステムが、ある設定ミスで止まってしまう障害が起きてしまいました。防ぐことができた障害だったので非常に悔しく、もっと技術を追求したいと希望を出し、R&D部門に配属されました。

― ツワモノ達の集う部門ですね。

レベルが違いましたね。そこで、かなり進んだ考えの先輩たちに出会いました。2006年当時、世の中ではRuby on Railsが話題となっていました。Javaが主流なエンタープライズ向けのシステムも近い将来、Rubyで開発する日が来るのではないか、その時、耐障害性と負荷分散可能な仕組みが必須となるだろう、と先輩二人でAP4R※という非同期メッセージングライブラリを開発したんです。

※AP4R:Asynchronous Processing for Ruby。2006年9月にOSSとして公開。特集記事はこちら

当時社内には、ほかにも技術的に優れた人はたくさんいましたが、積極的に外部に向けて発信する人はいませんでした。そんな中、それを最初にやってのけたのがAP4Rを開発した彼らでした。

彼らはAP4RをOSSとして公開しただけでなく、積極的に勉強会を開いたり海外のカンファレンスで発表したりしました。その様子を横で見ていて、「僕もいつか、同じようにいいものを作ってOSSとして公開し、海外で発表したいな」と思ったのです。

講演会の様子

実際に外部講演会に数多く登壇することになろうとは!

― VulsをOSSとして公開した原点のようなエピソードですね。その後はどんな業務を?

その後、東工大との共同研究や、大規模な流通業界のプロジェクトなどを経験し、キャリアを積みました。僕は技術が好きなので、日々技術力を磨く努力はしていましたが、社外に向けて挑戦をしていない自分へのくすぶった想いが募っていきました。世の中に貢献したい、もっと広い分野で活動したいと強く考え始めました。

― それはいつぐらいのことでしょうか?

35歳手前くらいだったので、5年ほど前ですかね。当時、僕は100台以上あるサーバーの運用を任されていましたが、脆弱性の管理に手がかかることに悩んでいました。機密情報も格納されているのでセキュアな運用が必須でしたが、手動で対処するというのは負荷が高すぎる。何かいいツールはないかと探しましたが、なかったので自分で作ろうと思い立ちました。

「ないものはつくる」というのがフューチャーのDNAですし、作れば世の中のデファクトスタンダードになるぞ、と。脆弱性管理に困っている人はたくさんいるし、今まで積み上げてきた僕の技術力で解決可能だし、ここはひとつ勝負をしてみようかな、と。

◆エンジニアとしての挑戦――OSSで社会貢献を

― この「勝負」というのがVulsの開発でしょうか?

そうです。そんなタイミングで、Future’s Holidayという勤続10年の特別休暇をもらったので、ネパールとインドを旅しました。

ネパールでは、世界平和のために数十年以上修行を続ける高齢の僧侶に出会いました。彼は世界のために修行しているが、僕は世界のために何をしているだろう、何ができるだろうか、と思いを巡らせました。そして、ガンジス川を訪れたときに悟ったのです。

「僕はエンジニアだ。技術を世界のために使いたい。OSSで社会貢献したい」

帰国後、当時所属していた部署の定例会議で「現在、脆弱性の管理が非常に高負荷なので自動化したい。自動化の方法は見当がついているので、やらせて欲しい」と発表したところ好感触が得られました。そこで、直属の上司に「3カ月あれば作ることができるので、出社せずに家にこもって開発したい」と直談判したところ、「いいよ」と一言。

― 挑戦を尊ぶフューチャーらしいひとコマですね。

社外でこのエピソードを話すと「ありえない」「よくOKしたね、その上司」という反応が返ってきますね。

多少の不安はありましたが、退路を断って自分を追い込みました。昔から追い込まれないとやらないタイプなので(笑)

― OSSとして公開後、短期間で話題になったそうですね。

OSSはGitHub(OSSを公開できるプラットフォーム)での獲得スター数がかなり重要なのですが、日本よりも海外のコミュニティが10倍くらい大きかったので、ドキュメント類も英語で用意するなど海外に照準をあわせました。

3カ月間、自宅にこもって開発していたこともあり、バズらせないと後がないという切羽詰まった状態だったので、様々なコミュニティで宣伝しました。

面倒だとか、恥ずかしいとかそんな気持ちも全くありませんでした。いいものを作っても認知されなければ使ってもらえない、というのは以前いたプロジェクトで経験して反省したので、Vulsについては自分で宣伝して多くの人に使ってもらいたいと考えていたんです。

おかげで、短期間でかなりの話題になりました。GitHubのTrending(過去24時間のスター獲得数ランキング)全言語で1位になった時はテンションが上がりましたね。

Github1位

全言語で1位!

◆野望はOSSとクラウドサービスの持続可能な仕組み

― Vulsは現在クラウドサービス化を進めていますね。そのきっかけは?

「Vuls祭り」という勉強会を開催したことです。

Vulsのサポート用に作ったSlackには、当時100人くらいメンバーがいました。海外8割、日本2割くらいだったでしょうか。

ある時、Vulsを中傷するような書き込みをする海外ユーザーが現れました。どう対応しようか悩んで、ほとんど会話がなかった日本語チャネルで相談してみたんです。すると、「神戸さんが直接反論すると角が立つから、俺が文句を言ってやるよ」という人が現れました。

― それはアツい展開ですね!

この出来事をきっかけに日本語チャネルが盛り上がり、一体感が生まれました。その流れで「Vuls祭り」を開催したところ100人ほど参加してくれて、「脆弱性を検知、可視化したあとの判断に困っている」というユーザーの声を聞くことができました。

Vuls祭りの様子

第1回Vuls祭りの様子。

少し前からVulsの有償サービスについてアイデアを練っていたのですが、実際のニーズを聞いたことで確信を得て、クラウドサービス化を進めることにしました。

― サービス化は最初から順調でしたか?

いいえ、決して順風満帆ではありませんでした。当初は運用担当者向けの機能を作っていたのですが、あまり響かなかったのです。可視化ならOSSでいいじゃないか、と。

そこで、リスクを可視化し潰しこむという責任を負っている、セキュリティ部門向けの機能を強化することにしました。クラウド版サービスは現在40社以上のご利用があり、ここ半年でセキュリティ部門向けプランのお客様が増えています。

― 現在の業務内容を教えてください。

OSSのメンテナンスとクラウドサービスに関する業務全般(開発、サポート、営業、契約等)を担当しています。営業に行くときは、僕の正装であるVulsロゴ入りポロシャツと、トレードマークのちょんまげヘアスタイルで臨んでいます。

ちなみに、ちょんまげは小6の娘から大不評ということもあり、講演時や営業に行くときのみの、「ビジネスちょんまげ」です(笑)

Vulsポロシャツ&ちょんまげ

神戸さん営業時の正装&ビジネスちょんまげ。

― 活発にされている社外活動では、どんなことを心がけていますか?

社外活動では、ギブアンドテイクを意識しています。自分から最初に情報を出すことで、人が集まったり、助けが得られたりするものです。OSSを公開してみて、人の縁の重要性を改めて実感しました。Facebook上の友人が勉強会や講演の誘いをくれますし、勉強会に出てVulsの話をすることで、クラウドサービスの売り上げにつながります。

Vulsが進化し、クラウドサービスも進化する、ユーザーが増加して世の中がセキュアになる、売り上げも増加し利益をOSSに還元することができる、そういった持続可能な仕組みを作るのが今の僕の目標です。

― 最後に一言、学生や若手の方にメッセージをお願いします。

日々の鍛錬、つまり、昨日の自分との差分を意識し、勉強してレベルアップし続けることが重要です。アイデアが湧いた勝負すべきタイミングで、腕がないと戦うことができません。適当な技術力で作ると、設計やメンテナンス性が優れていないので、人は使ってくれません。

いつか来る「その時」に備えて自己研鑽を積むことで、必要な時に大きく飛ぶことができるのではないか、僕はそんな風に考えています。

Vulsロゴ入りカメラ目線神戸さん_加工v1

日本最大級のセキュリティ国際会議「CODE BLUE」出展時に、神戸さんの知らぬ間にセキュリティ業界の知人(実は有名な方)により制作されたもの。人の縁と遊び心を感じますね。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
未来報ではこれからも、フューチャーの魅力的な社員を紹介していきます。お楽しみに!

吉井


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