人工衛星開発者が工場勤務を経てITコンサルタントになるまで
ご安全に。TIG/DXチームの栗田 真(くりた しん)です。
2019年5月にフューチャーに転職し、工場系案件などハードが絡む案件を中心に担当しています。
自ら手を動かし提案から実装までを担える環境を目指して現職を選んだ私ですが、“IT系”としては比較的異色なキャリアと自負しています。今回はキャリア入社者の観点で「どのようにキャリアを選択し、なぜフューチャーに至ったか」を記載します。私のように社会人歴数年で転職を考えている方だけではなく、業界/会社を検討している就活中の学生の方にも参考になるよう意識していきます。
1.自己紹介
もともと高校の物理の先生になりたいと考えていた私は大学の物理学科で教員免許取得を目指していましたが、研究室に入ってからは宇宙物理を専攻し、主に人工衛星の開発を行っていました。私は特に観測機器の制御ソフトが担当でしたが、開発をすすめるうちにシステムを作っていくことが楽しくなり、教員免許は取得したものの、エンジニアになることにしました。
衛星開発時代の修羅場より。写真右が栗田。
エンジニアを志すにあたり当初はSIerなども考えていましたが、「泥臭く開発をしたい」という思いが強くありました。「工場で使っている制御ソフトはすべて自製している」という人事の言葉を信じ、研究室の先輩のいた前職にあたる国内大手製鉄会社に、理系総合職として入社しました。ちなみに冒頭で記載した「ご安全に」ですが、これは鉄鋼業界を中心に使われる挨拶で、芸能界の「おはようございます」のように24時間使われる挨拶です。通常時の挨拶だけではなく、文章や講演の始まりや結びの言葉としても使われる、便利な言葉です。慣習として「ご安全に!!」と強調されることが多いですが、個人差があります。
宇宙科学分野の国際学会で赴いたロシア/モスクワにて。ちょうど人工衛星開発の輸出リミットが迫っており、とんぼ返りで前述の開発現場に戻る。
2.前職の経験
2016年修士卒として社内SEに配属された私は、自社工場向け制御用システムのエンジニアリングを担当しました。いわば、SIerの要件定義や基本設計に相当する業務で、自社工場を顧客として御用聞きに行き、仕様をまとめ、お金と進捗と品質の管理を行い、最終的にシステムを工場に納める、という仕事でした。
システムの導入に際して、頻繁に工場に出入りしました。4直3交代(※1つの現場の24時間を3交代制として4組で回すシフト勤務のことで、朝昼晩で3組が担当し残りの1組が休みとなる)の現場へ繰り返し足を運び、作業者の方に顔を覚えていただきながら、新システムを取りまとめしました。「茶菓子やコーヒーを出してもらえたら1人前」と言われましたが、2ヶ月通ってようやく現場の方からお菓子をいただけるまでの関係を築けました。
前職は典型的な日系大企業ですが、多くのことを学びました。特に巨大な縦割り組織の中での調整として、キーマンと良好な関係を築き、関係者一人ずつと事前に意見をすり合わせ、現場からの信頼を味方につけ、会議で円滑な意思決定を行えるよう努めました。これは今でも大きな武器となっています。
3.転職理由
泥臭い開発がしたかったものの、開発を行うキャリアパス自体が無いことが最大の転職理由です。大きな理由としては二つです。
一つは、希望するキャリアパスが存在しなかったことです。総合職かそれ以外かの職種に関わらず、基本的にマネージャとして上がっていくキャリアパスしか存在しておらず、技術特化だとある程度の出世で頭打ちになることが明白でした。私の価値観として若手のうちは開発者として経験を積み、培った技術を元にチームを率いていきたいと考えていましたが、それが満たせない環境でした。前職に退職の意志を伝えたところグループ会社の研究所への転籍も提案していただきましたが、あくまでそれは研究所であり、謹んでお断りしました。
もう一つは、同年代層(高々入社4年目で辞めましたが)を見渡して、技術的に同じレベルで会話できる人が非常に少ないと感じたことです。あくまで私が観測できた範囲ですが、本当に技術に明るいと感じたのは50代も半ば以降の超ベテランが片手の数ほどで、それ以外の方はさっぱりな具合でした。「Gitって何?」という方たちには情報をまず入れるところから行う必要がありましたが、例えばプライベートで得た情報などを部内に流しても反応が鈍く、勉強会を開催してもなんとか自分の後輩が参加するくらいで、他の多くの方は興味がなさそうでした。啓蒙活動ですらなく意識改革が必要な環境でしたが、自分が周りを変える労力は計り知れなく、結果自分が違う環境に飛び込んでいくことにしました。
その他にも細々した理由はありました。例えば私の作業環境は非常に貧弱なOA用デスクトップマシンで、これで最適化シミュレーションなどを行っていました。Outlookでメールチェックしながら大量の写真が貼られたExcel文書を開こうものなら数十秒パソコンの前で待ちぼうけを食らっていたのは、よく見た光景です。また、業界的に安定した制御を行うために“枯れた”技術が好まれた傾向があるのですが、開発環境自体も枯れていました。部署や案件にもよりますが、CI/CDどころか単体テストコードもなく、仕様書はExcelでバージョン管理ソフトも満足に利用していない現場がありました。最後に、勤務地と配属面的なものとして、工場が全国各地にあり、辞令一つで日本全国あるいは海外を転々とする可能性がありました。出張は嫌いではありませんでしたが、実際に家庭を作ってパートナーと共働きすると頻繁な転勤は難しそうで、さらにずっと東京で長く育ってきた自分にとって、地方で生活することは生活スタイルとしても価値観としてもなかなかあいませんでした。
前職時代の住まいから車で10分の場所。良くも悪くも非常にのどかな街で、ここを拠点に全国の工場に出入りしていた。
4.フューチャーを選んだ理由
前職での悩みを解決できたのがフューチャーでした。特にフューチャーに入社する決め手となった要素は3つあります。
一つは技術に対する姿勢です。どうしても転職時の私の職歴だとITでも要件定義や基本設計を主とするSIerや、あるいはコンサルタントといった、いわば全くコードを書かない職種への転職を勧められました。その点フューチャーではマネジメント系の職と同列でアーキテクト系の職があり、自分が目指したいプレイングマネージャーのような働き方もできることは、大きく私の背中を押しました。また、フューチャーはベンダーロックインを嫌い、オープンな技術選定を行う姿勢も魅力的でした。やはり特定の技術にこだわると使える技術体系に偏りが生じるので、常にベストな技術選定ができることは自分のキャリアにおいても強みになると考えました。
二つ目は、優秀なエンジニアが在籍していたことです。オライリーやSoftware Designで書いている人がいて、そんな人達と一緒に働いてみたいと思いました。特に私はPythonistaであったので、転職前には澁川さんのブログを読んでおり、かなり後押しを受けました。実際に入社してみると強いエンジニアの方たちが沢山在籍しており、後ろを振り向けばOSS Contributorが仕事しており、Chatを見ていれば「先週○○で登壇してきました」という報告が流れ、新人が入社してくれば「〇〇さん、つよくてニューゲーム中ですか?」と感じるなど、優秀なエンジニアは外から見る以上に何倍もいると感じました。
最後に、決め手となったのは「あなたの技術を活かしてみないか」と言ってもらえたことです。前職時代は自分に技術やスキルがあっても活かす場がなく、「ベンダをうまく使って安く仕様通りのシステムを作る」現場ばかりであった私には、非常に魅力的な言葉でした。ブログで読んだ人、OSSでコードを読んだ人、勉強会で登壇していた人、面接であった人と一緒に自分の技術でプロジェクトを作っていけることは、非常に魅力的でした。
フューチャーで働いてから積極的に個人開発も行い、PyConJP2019に登壇。
5.フューチャーで働いてみて
これまでも魅力を述べていますが、実際に働いてみると会社としても良いと感じることがありました。そのうち2点を述べます。
1点目は、特定の業界に固執しない多様な案件があることです。直接顧客と会話して、どうしてそのシステムが必要なのかをビジネスの観点から正しく理解したうえで開発できるため、IT業界に身を置きながらあらゆる業界の知識を吸収していくことができます。業務を推進することが自分の引き出しを増やし、成長を促してくれます。そして、自分の成長が結果として常に顧客に素晴らしい体験を提供することに繋がっていると考えます。
2点目は、極力個人の適性や希望に応じたアサインを行っている点です。私の場合は「これまでの工場の経験を生かして、ハードとソフトをつないでいきたい」ことから、今のプロジェクトに決まりました。例えばインフラあるいはアプリの領域を極めていったり、あるいは特定の業界を希望していくような人もいます。もちろん各プロジェクトの開発フェーズや求められるメンバー像にもよりますし、タイミングが大事なところは多分にありますが、比較的柔軟なアサインを行っていると感じます。
チームのメンバーとウェビナー登壇したときの様子。詳細はこちら。
6. 最後に
幸いにも私はフューチャーの働き方があっており、非常に充実した日々を送っていますが、必ずしもこれがすべての方に当てはまるとは限りません。できるかぎり、私以外の他の社員の話を聞き、働き方を確認してみてください。フューチャーに限ったことではないですが、我々社員の意見は生存者バイアスが働きがちです。企業をPRしなければ行けない立場からすれば至極当然のことですが、「この人は本当の事を言っているのか(物は言いようではないか)」「都合の悪いことを隠してはいないか」「この人が知らない会社の側面はないのか(たまたまこの人が見えている会社の側面が良いだけではないのか)」など、あらゆることに対して疑問を持ち、納得をしたうえで今後のキャリアを選択してください。特に新卒の方などは、会社説明会ではなんとなく聞こえの良い話を聞いて満足するのではなく、「このような働き方をしているように聞こえたが正しいか」など具体的な言葉に落としながら各社における働き方を確認してみてください。私はフューチャーの事を理解していただけるよう努力しますので、どこかしらのイベントで見かけましたら気軽にお声がけいただければ幸いです。そしてフューチャーを理解して入社を決めていただけるのであれば、これほど嬉しいことはありません。ぜひとも、素敵な皆様と一緒にお仕事できることを楽しみにしています。
それでは皆様、ご安全に。